瓦屋根の劣化症状とメンテナンス方法について解説
2024/05/01
瓦屋根は日本で昔から使用されており、屋根材の中でも非常に長い耐用年数をもち、通気性にもすぐれた伝統的な屋根材です。
その耐用年数の長さから、屋根材自体はあまりメンテナンスをする必要がないという特徴があります。
しかしそれでも永遠にもつというわけではありません。やはり経年劣化は避けられず、また、瓦屋根を固定している漆喰や下地材などが劣化するということもあります。
ここでは瓦屋根の劣化症状やメンテナンス方法について紹介していきたいと思います。
瓦のズレや落下などの劣化症状が起こる原因は?
瓦屋根の主な劣化症状としては、瓦のズレや破損、落下などが挙げられます。
瓦のズレや破損が起きて放置していると雨漏りが起こることもあります。
こちらでは瓦がずれたり落下したり、また瓦屋根で雨漏りが起こる原因についてご紹介します。
瓦そのものの劣化
瓦屋根には、粘土瓦やセメント瓦などさまざまな種類が存在します。
それぞれの素材には耐用年数があり、粘土瓦は50年から100年以上持つと言われていますが、セメント瓦などは20~30年程度で劣化が進むこともあります。瓦は他の屋根材に比べて耐久性が高い屋根材ですが、瓦自体が長期間にわたって使用されると、強風や雨などの外的要因によって劣化が起こります。
経年劣化のほかにも、強風や台風によって飛来物が瓦に衝突し、ひび割れや破損を引き起こすこともあります。このような破損が起こると、瓦が正しい位置に留まらなくなり、ズレたり外れたりする原因となります。
風雨や時間の経過によって瓦自体の強度が低下し、最終的に瓦のズレや落下に繋がることがあるのです。そして劣化した屋根材を放置していると、雨漏りの原因となります。
漆喰の劣化
瓦屋根において棟部の瓦は漆喰で固定されています。
この屋根漆喰は屋根を安定させるために重要な役割を果たしています。
漆喰は瓦を固定するほかに、美観的な要素も担っていますが、素材そのものの耐久性が瓦よりも低いため、だいたい20年程度で劣化し始めます。
漆喰がひび割れたり、剥がれたりすると、瓦を固定する力が低下し、漆喰がボロボロと崩れて落下してきます。
そうするとできた隙間から雨が入り込んで、棟瓦の内部の土が流出して瓦を固定する力が弱まってしまいます。この漆喰の劣化が進行すると、棟全体がずれたり、雨漏りが発生する原因にもなります。
ルーフィングなどの下地材の劣化
瓦に限らず現在の屋根の構造は、表面の屋根材だけでなく、その下に敷かれたルーフィング(防水シート)や野地板(屋根を支える木材)などの下地材によって構成されています。
ルーフィングは雨水が屋根を通過しても建物内に侵入しないように防水の機能を果たし、野地板は瓦などの屋根をしっかりと支えるための基盤となります。
しかし、これらの部材は瓦よりも耐用年数が短く、時間が経つと劣化が進みます。特にルーフィングが劣化すると、水を防ぐ力が弱まり、瓦の隙間から侵入した雨が下に流れ、野地板が腐食します。
そうなると瓦を支える力や、屋根そのものの耐久性が低くなってしまいます。
水分が内部に浸入すると、屋内に水漏れが発生し、建物内部にまでダメージを引き起こしてしまいます。
土葺き屋根の葺き土の流出
土葺き屋根は、瓦の下に土を敷いて瓦を固定する屋根の葺き方です。
昭和初期によく採用されていましたが、土の重量で耐震性が低下してしまうこともあって現在では新築では施工されていません。
この葺き土は、瓦を安定させるために重要な役割を果たしています。しかし瓦がずれてそこから雨が入りこむと下の土が雨とともに流れ出していきます。
それが続くことで瓦を固定する力が弱まり、瓦がさらにずれたり落下する恐れが高まります。
土葺き屋根についてもっと詳しく知りたい方は下記の記事を参照してください。
京都で多い土葺き瓦屋根 雨漏りの原因と修理方法について
瓦がズレた場合、外れた場合にはどうすればよいのか
瓦がずれてしまうと、できた隙間から雨水が入り込んでしまいます。
もしも大量の水が内部に浸入すると、下のルーフィングやさらにその下の野地板の劣化が早まり、雨漏りの発生原因にもなります。
ここでは瓦がズレてしまった場合の修理方法などについて大まかにご紹介していきます。
ずれた瓦を戻して固定する
強風や地震などで瓦がズレた場合、まずは元の位置に戻す作業が必要です。
ズレた瓦をそのまま放置しておくと、さらにズレが広がる可能性があるため、早期に対処することが重要です。
まず、ズレた瓦を慎重に元の位置に戻し、瓦をしっかりと固定します。
しかしもしも瓦の下のルーフィングが劣化している場合や、あまりにもずれた瓦が多い場合、もしくは瓦そのものが劣化している場合は屋根全体の劣化が進行しています。
単に瓦を戻すだけではなく、全体的な屋根の状態を点検してもらって状態に応じて必要なメンテナンスをすることが重要です。
新しい瓦に交換する
台風などの強風や飛来物によって、瓦が1枚や2枚程度割れたような場合には、割れた瓦を新しい瓦に交換する補修が行えます。
既存の瓦を撤去して、新しい瓦を同じ種類、もしくは似た種類のものと交換してしっかりと固定します。
交換作業を行う前にも、ほかの割れていない瓦の状態や、ルーフィングなど下地の状態も点検して、他に問題がないかを確認しておくと安心です。
瓦を部分的に補修する
一部分の瓦がズレていたり、軽度の破損が見られる場合には、その部分だけを部分補修する方法も有効です。
部分補修は、劣化が進んだ部分の瓦を撤去して、必要に応じて下地(ルーフィングや野地板)も交換した上で、新しい瓦や材料を設置する方法です。これにより、局所的な問題を解決し、雨漏りを防止して屋根全体の機能を回復させることができます。
しかし、もしも破損が広範囲に及んでいたり、瓦全体や下地まで劣化しているような場合には、部分補修では対応しきれないこともあります。その場合には、全体的な葺き替え工事を検討することが重要です。
部分補修はあくまで軽度の問題に対する対応策として有効なため、範囲が広がる前に早期の補修を行うことがおすすめです。
葺き替え工事を行う
瓦屋根の大部分でズレや破損が見られたり、瓦自体が劣化してきている場合や雨漏りが発生して下地まで傷んでいるような場合には、屋根全体をリフォームして刷新する葺き替え工事を行う必要があります。
葺き替えは、古い瓦を全て撤去して、下地材(ルーフィングや野地板)も新しいものに取り替える作業です。これにより、屋根そのものの耐久性や防水性能が回復して、建物全体の耐久性も高めることができます。
葺き替え工事では、下地から屋根材まで全面的に新しいものにするため、工事に時間と費用がかかりますが、最も効果的な改修方法と言えます。
また、この作業を行うことで、屋根の寿命を大きく延ばし、今後のメンテナンス負担を軽減することができます。
さらに重い瓦屋根から軽い金属屋根に葺き替えることで、屋根全体の軽量化をはかることも可能です。
屋根瓦の種類によるメンテナンスの方法や補修方法、費用について
屋根の補修工事を行う際にはそれぞれの瓦の種類によって大きく費用や方法が違ってきます。
ここでは代表的な瓦屋根のメンテナンスの方法や費用について紹介していきます。
粘土瓦のメンテナンス費用と方法について
粘土瓦の特徴
粘土瓦は日本の伝統的な屋根材で、非常に長い歴史を持ち、耐久性に優れています。
天然の粘土を素材として瓦の形に形成して高温で焼いて作られています。見た目に風格があり、経年によって味わい深い色合いに変化することが魅力です。
耐久性が高いことが大きな特徴で、耐用年数は一般的に50年から100年程度と長く、耐候性や防水性も高いため、しっかりとしたメンテナンスを行えば長期間にわたって使用できます。粘土瓦の屋根は、雨や風に強く、特に湿度が高い地域でもその特性を発揮します。
一方で、重量があって屋根が重くなるというデメリットもあります。この重さが原因で、耐震リフォームを行う際には粘土瓦から金属屋根への葺き替え工事が行われることも多いです。
粘土瓦のメンテナンスや補修方法
粘土瓦のメンテナンスは、まず瓦のズレや破損がないか、漆喰の劣化がないか定期的に点検することが大切です。
長年使用していると、瓦のズレや割れや欠けなどの症状が発生することがあります。こうした劣化を見つけたら、その都度補修が必要です。
また、瓦を固定するための漆喰が劣化している場合は、漆喰の詰め替え工事が必要になります。
葺き直し工事
瓦そのものがまだ使用可能で、下地だけ交換する場合には、葺き直し工事を行います。
葺き直しは瓦独自の工事で、一旦今の瓦を撤去して、ルーフィングの交換や下地の補修を行ったあと再度瓦を葺いていきます。
他にも土葺きの屋根から土を使用せず、土の代わりにルーフィングを使用して桟木に瓦を固定する引っ掛け桟方式の屋根に替える場合もあります。
葺き替え工事
瓦から別の屋根材に替えたい場合には、葺き替え工事を行います。
葺き替えは古い瓦を撤去して、新しい瓦に交換します。
葺き替え工事の費用は、瓦の種類や施工の規模によって異なりますが、一般的には坪単価で計算され、10~15万円程度が相場となります。新しい屋根材の種類にもよりますが、一般的には100万~200万円前後の費用がかかることが多いです。
【瓦屋根の葺き替え工事の施工事例】
セメント瓦のメンテナンスや補修方法
セメント瓦の特徴
セメント瓦はセメント、砂、水を混ぜ合わせて瓦の形に成型して作られる屋根材です。
耐火性や耐熱性に優れ、瓦よりは軽量ですが屋根の中では重量のある屋根材です。表面には塗装が施されており、定期的な塗装メンテナンスが必要です。
1970年代から1980年代によく使用されていましたが、現在では多くの製品が生産中止になっています。
セメント瓦は比較的短い耐用年数(30~50年)を持ち、耐火性や断熱性にも優れていますが、粘土瓦に比べると吸水性が高いため、湿気や苔の影響を受けやすいです。特にセメント瓦は経年劣化が進みやすく、割れやすいという特徴があります。
セメント瓦のメンテナンス方法や費用
セメント瓦は、定期的な点検を行い、割れやヒビがないか確認することが大切です。
割れがあったとしても生産中止でメーカーで在庫がない場合もあるため、部分的な補修が難しいケースもあります。
塗装
セメント瓦は上記のように塗装によるメンテナンスが必要です。
セメント瓦本体には防水性がないため、表面に塗装を施すことで防水性を高めて、劣化を防ぎます。
塗装が劣化すると、塗料がもつ防水性が低下して、苔の発生やひび割れなどセメント瓦の劣化が進行しやすくなります。
セメント瓦に近い「乾式コンクリート瓦」であるモニエル瓦の場合は、塗装時に注意が必要です。
ただ、1970年~1980年に建築されたお家の場合、セメント瓦そのものの耐用年数が切れている場合があります。その場合は塗装ではなく、葺き替え工事が必要です。
塗装費用は、足場の組み立てや解体、人件費、塗料の費用を含めて50万~80万円程度が相場となっています。
葺き替え工事
セメント瓦全体が劣化している場合のリフォーム方法は葺き替え工事となります。
工事の費用は、屋根の広さや新しい屋根材の種類によって異なりますが、一般的には粘土瓦と同じく、葺き替え工事が100万~200万円程度が相場となります。
【セメント瓦の葺き替え工事の施工事例】
瓦にはカバー工法はできません
屋根のリフォーム方法といえば葺き替えと並んでカバー工法がよく行われています。
カバー工法は既存の屋根はそのままで、上から新しいルーフィングや屋根材を被せる方法です。
現在の屋根材は撤去せずに屋根リフォームができるため、葺き替えよりも費用を抑えられることから非常によく行われています。
しかし上でご紹介した粘土瓦やセメント瓦ではカバー工法は行えません。
理由は、カバー工法はフラットな屋根材にしか行えないことと、屋根が二重になるため、もともと重量の屋根材にもう一重屋根を被せてしまうと耐震性に問題があるためです。
まとめ
屋根瓦は日本では古くから使用されてきた屋根材です。
瓦自体の耐用年数は非常に長く丈夫な屋根材ですが、経年劣化は避けられず、また瓦以外にも漆喰やルーフィングの劣化によってさまざまな劣化症状が発生します。
瓦のズレなどの劣化症状を放置してしまうと、雨漏りなどの原因となりますので、定期的にメンテナンスや定説な補修工事を行う必要があります。
使用している瓦の種類、劣化状態に応じてメンテナンスをしていくことで長く瓦を正常な状態で維持していくことができます。
山田工芸は瓦屋根の実績も多数ございますので、横浜市にて瓦屋根に関するお悩みは是非、お任せください!